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大阪高等裁判所 昭和43年(行コ)17号 判決 1969年12月09日

神戸市兵庫区都由之町三丁目四五番地

控訴人

有限会社ローラン美容室

右代表者代表取締役

白井金蔵

同市同区水木通二丁目五番地

被控訴人

兵庫税務署長

森本正三

右指定代理人検事

上野至

法務事務官 葛本幸男

大蔵事務官 辻本勇

本野昌樹

三上耕一

右当事者間の更正決定取消請求控訴事件につき、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴会社代表者は「原判決を取消す。被控訴人が控訴人に対し昭和三三年二月二八日付通知第九三九号、第九四〇号、第九四一号をもつてした控訴人の昭和二八年六月一日から同三一年五月三一日までの三カ年にわたる事業年度における所得金額に関する各再調査決定はこれを取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張並びに証拠の提出、援用、認否は左のとおり附加するほかは原判決事実摘示と同一(但し、原判決一〇枚目表末行の「前期、」を「前記」と、同一一枚目裏三行目の「更生決定額」を「更正決定額」と訂正する。)であるからここにこれを引用する。

(控訴人の主張)

一、控訴会社には被控訴人主張のような除外利益(隠蔽所得)はなかつた。被控訴人は、柴田喜代子(控訴会社代表者の妻)、同すみ子(喜代子の母)名義の神戸銀行有馬道支店に対する普通預金通帳の存在をもつて、控訴会社の午後六時以後の営業収入の預金であると曲解し、控訴会社はこれを除外して所得の申告をしたというのであるが、控訴会社の計理上かゝる所得隠蔽はなしえないところである。すなわち、(一)控訴会社は美容院を営むいわゆる現金商売であり、その出納手続について言うと、まず顧客毎にナンバー付き伝票を発行し、技術担当者がセツトとかパーマとかの種目を記入し、終了後レジスターにおいて右伝票を通じ料金の支払を受ける建前にしており、その間に計理の不明朗なきよう努めている。しかして、営業終了時刻は午後六時ではあるが、その頃着手した分は実際は午后七時ないし八時に終ることは事実であるが、このような場合でも前記のとおり伝票を整理し全額集計しているから、特に午後六時以後の収入を特別扱いにしているわけでなく、まして被控訴人主張のように前記預金通帳に入れて隠し収入としたことはない。(二)また、被控訴人が指摘する前記預金は控訴会社と無関係である。控訴会社代表者は、控訴会社の美容院の営業とは別個に、昭和二九年六月から、当時の電気によるマシンパーマから薬材によるコールドウエープへの美容技術の変革に応え、業者の科学的知識普及のため月刊業界紙「美容科学」を発行し、さらには美容材料(コールドバーマ液等)の小口売買、書籍の出版、取次などをも個人事業として営み、収益を挙げていたのであり、前記預金口座も爾来右個人事業上の収益保管のため利用していたものである。

二、被控訴人は昭和三二年二月八日控訴会社の抜打ち調査を実施した結果、前記預金通帳二通を発見し、本件再調査決定に及んだものであるが、右通帳は、控訴会社本店附近の地域暴力団にかゝわりのある訴外三金善助なる者の密告によつて被控訴人側係官が発見したもので、そのさい控訴会社管理人中野政治郎は、右預金は控訴会社の所得と関係ない旨弁明これ努めたにもかゝわらず、被控訴人側係官はこれを信用せず、専ら控訴会社と関係のない第三者の言を信用したもので、かゝる調査は不公正にして違法であるから、右調査に拠る本件決定は取消されるべきである。

(被控訴人の主張)

控訴会社代表者個人が控訴人主張のような事業をしていたとしても、かゝる事業によつて果して利益が生じたか否か明らかでない。仮りにかゝる事業利益が存したとしても、元来控訴会社は美容業経営のほかこれに附帯する一切の業務をなすを目的としているのであるから、これらの事業収益も控訴会社に帰属するものと考えられる。このことは、控訴人主張の業界紙の発送等について控訴会社従業員がこれに当り、また柴田すみ子名義の預金中に美容収入と右業界紙購読料が区別されずに入金されていることによつても明らかである。

(証拠関係)

控訴会社代表者は当審証人梅村進、同中野政治郎の各証言を援用した。

理由

当裁判所は控訴人の本訴請求を失当と認めるものであつて、その理由とするところは左のとおり附加するほかは原判決理由説示と同一であるからここにこれを引用する。

一、控訴人が当審で援用した証拠によつても、原判決の認定した事実(控訴会社の昭和二八年六月一日から同三一年五月三一日までの三事業年度における所得金額が被控訴人の査定した再調査決定額を下廻らない事実)を覆えすに足りない。控訴人は、柴田喜代子、同すみ子名義の預金は控訴会社の所得と無関係であり、右預金は控訴会社代表者の個人事業による収益であるかのようにるる主張するけれども、控訴人の弁疏自体その内容において首尾一貫せず、かつ右主張を裏付けうる確証もないことは原判決説示のとおりであり、また当審証人梅村進の証言によつても、控訴会社代表者は個人事業であるという美容科学の月刊業界紙の編集、発行等によつては特段の収益を挙げたことはなく、たかだか実費回収程度の収支に過ぎなかつたことが認められる。

二、成立に争いない乙第二ないし第四号証の各一、二、原審証人山村秀雄の証言に弁論の全趣旨を綜合すると、被控訴人が本件再調査決定により査定した控訴会社の所得金額は、大阪国税局が当時施行中の法人税法第三一条の四第二項に則り控訴会社の申告内容を基礎として控訴会社になるべく有利に推計した所得金額と比較しても、なお下廻つていることが認められ、控訴会社の真実の所得金額が前記被控訴人の査定額をさらに下廻つているとは到底認め難い。

三、控訴人は、本件再調査決定の原因となつた被控訴人側係官の調査がその方法において違法不当である旨主張するけれども、右主張を肯認するに足る確証はないから、右のような主張によつて本件再調査決定の適法性に何らかの影響を及ぼすべきいわれはない。

よつて、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当で、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長判事 宮川種一郎 判事 竹内貞次 判事 畑郁夫)

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